相続した空き家の有効活用を考える

親御さんが亡くなった後の自宅を相続したけれど、自分はすでに別にマイホームを所有し、相続した家に住む予定はない。かといって、昔の思い出もある家なので、取り壊すのも忍びないが、そのままだと空き家になってしまう ――― 相続した親の家をどうしたらよいか、多くの方の悩みの種となっています。そして、どうすることもできず、空き家のまま放置しがちにもなってしまいます。

しかし、空き家をそのまま放置してしまいますと、庭の雑草が生い茂って環境を悪くし、地域に悪影響を与えてしまう恐れもあります。また、人が住まなくなった家は急速に老朽化が進んでいきますので、手入れなどもせずに放置したままですと、倒壊の恐れもあり、そうなれば周囲への迷惑は計り知れません。

  1. 空き家にすることの問題点
  2. 空家対策特措法の施行
  3. 空き家の有効活用のために
  4. 空き家問題に対する公的取り組み
  5. 空き家となった親の家の行く末を決める

1.空き家にすることの問題点

(1)空き家放置によるご近所への迷惑

一戸建ての空き家を放置しますと、庭には雑草が生い茂り、さらには樹木の成長により枝葉が隣地へ越境してしまいます。もちろん、周辺にお住まいの方は、そんな空き家の周りには住みたくありません。

さらには不審者の侵入や、それによって生じうる放火、そしてゆくゆくは老朽化の進行による建物の倒壊の恐れもあります。相続した家のご近所には、昔からお付き合いのある方もいらっしゃると思いますし、空き家の放置によって周りに迷惑をかけるようなことは避けなければいけません。

(2) 少なくない維持費の負担

空き家を放置し、何もしていなくても維持費はかかります。代表的なものとしては、所有する土地・建物に課される税金である固定資産税と都市計画税です。税率は、固定資産税は固定資産税評価額の1.4%(標準税率)、都市計画税は同0.3%(制限税率)となっています。ただし、建物があると軽減される「住宅用地特例」ありこれが空き家助長の要因ではないか、とも言われています。

そのため、今後は問題の多い空き家である「特定空き家」に指定されることによって軽減措置をはく奪し、場合によっては税金を数倍にすることによって、空き家の放置を防止していくことも検討されています。

その他固定資産税、都市計画税の税金以外にも、電気代、水道代などの光熱費や、庭木の剪定、草取り、建物補修など建物の維持管理費などの費用がかかってきます。光熱費などは、住んでいなくても基本料金はかかりますし、庭木の剪定なども、近所に迷惑をかけないためには必要です。税金を除くこれらの費用だけでも、場合によっては年間50万円程度かかることもあります。

(3) 不動産価値の低下

人が住んでいない住宅は、劣化、老朽化が急速に進んでいきます。親の自宅を相続し、空き家にしますと、そもそも古い住宅が多く、耐震性も低い場合が多いですから、空き家にすることで、瞬く間に「住めない住宅」になってしまう恐れもあります。そうなりますと、売れない、貸せない、という具合に、更なる不動産価値の低下を招いてしまいますので、早急な対策が必要です。

2.空家対策特措法の施行

ご存じのとおり、空き家問題はすでに大きな社会問題となっています。管理が行われていない空き家が環境等に悪影響を与えていることから、環境保全、空き家活用の対応のために、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家特措法)が2015年の5月に全面施行されました。

参考リンク:空家等対策の推進に関する特別措置法

空家特措法では、市町村が、①倒壊等著しく保安上危険となる恐れのある状態にある空き家、②著しく衛生上有害となる恐れのある状態にある空き家、③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態にある空き家、④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にある空き家など、周辺に対して有害な影響を及ぼしている空き家を「特定空家等」に指定します。具体的には、以下のような状態にある空き家が「特定空家等」に該当します。

  1. 著しく保安上危険となる恐れのある状態
    • 柱が傾斜している  
    • 屋根が変形している
  2. 著しく衛生上有害となる恐れのある状態
    • ごみ等の放置、不法投棄による臭気の発生  
    • 排水等の流出による臭気の発生
  3. 著しく景観を損なっている状態
    • 多数の窓ガラスが割れたまま放置されている
    • 屋根、外壁等が汚物、落書き等で大きく傷んでいる
  4. 周辺の生活環境の保全のために放置が不適切
    • シロアリが大量に発生し、近隣の家屋に飛来

ただし、上記のような状態にある空き家がすべて特定空家等に指定されるわけではなく、行政からの助言、指導、勧告を受けても状況が改善されない場合に、特に指定される可能性が大きくなります。例えば、行政より庭の雑草の除草を求められたにもかかわらず、なにもなされず放置されたままの場合などで指定される恐れが大きくなり、指定を避けるためには積極的な対応が必要です。また、一度指定されても、原因が改善されれば指定は解除されます。

特定空家等に指定された空き家に対しては、市町村は除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の助言又は指導、勧告、命令が可能となり、命令に従わない場合、50万円以下の過料を科され、所有者の公表、さらには行政が所有者に代わり建物除却等を行い、その費用を所有者に請求する「行政代執行」が行われる可能性もあります。ただし、個人の私有財産に対して除却を行うことになるため、現在のところ、代執行に積極的な市町村は少ないようです。

さらに特定空家等に対しては、税制上の措置も行われます。自治体が特定空家等の所有者等に対して必要な措置を勧告した場合、「1.空き家にすることの問題点」のところでも触れました固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外する措置が取られる可能性があります。

固定資産税等の住宅用地特例とは、住宅用地の固定資産税・都市計画税が、固定資産税で最大6分の1、都市計画税で最大3分の1に減額される制度で、これまで、この特例のために、空き家取り壊し、更地化が進まない大きな要因となっていた、と言われています。そして、2015税制改正大綱において、今後適切な管理が行われていない空き家については、この特例を解除できるようになったのです。

解除により、空き家所有者にとっては、支払税額の増加が見込まれ、税制のメリットがなくなれば、空き家を残しておく必要がありませんので、空き家の解体・更地化の進展が期待されています。

3.空き家の有効活用のために

空き家を空き家のまま放置しないためには、取り壊しを含めた有効活用を図っていく必要があります。

空き家の有効活用とは、例えば、人が住んでいない「空き家」に、人に住んでもらう、あるいは建物を取り壊し、土地を別の方法・目的で利用することで、活用を図っていくです。そのために、まずは人が住める状態に修繕をし、その状態を維持するために適切に管理を行うことが必要で、そしてその後に、売る、貸す、取り壊す(その後有効活用、売却)、といった活用方法を検討していくことになります。

(1)修繕する

居住するうえで特に大事な部分である主要構造部(屋根、外壁)やライフライン設備(電気、ガス、水道)は、劣化がみられる場合は必ず修理をしておきましょう。費用は、数万円~200万円程度が主流ですが、大掛かりな工事となると1千万円を超える場合もありますので、複数業者から見積書を取って内容しっかりチェックする必要があります。

リフォーム業者を選ぶ際の注意点は、以下のとおりです。

  1. 価格・・・取得した見積書で比較
    • 価格の安さだけで選ぶべきではない
    • 見積書などで工事内容もチェックする
  2. 工事実績・・・これまでの工事実施の経験
    • ヒアリング、ネット、口コミ等で情報収集
    • 実際の工事だけではなくアフターサービスについても
  3. 得意分野・・・業者によって大きく異なる
    • 部分的な少額のリフォームは地元の工務店など
    • 大規模リフォームは大手のハウスメーカーなど 

(2)管理する

空き家の管理をする意味は、「住める状態に維持する」ことと、「近隣に迷惑をかけない状態に維持する」ことがあると思います。何もしないで「放置」することは避けましょう。

まず、住み続けるための管理としては、

  • 換気(空気の入れ替え)・・・湿気を避ける
  • 雨漏りのチェック・・・天井にシミがないか?
  • シロアリ被害のチェック・・・建物腐朽の恐れ

などがあるでしょう。

一方、「近隣に迷惑をかけないための」管理としては、

  • 除草作業・・・害虫の発生を防ぐ
  • 樹木の伐採・・・枝などの隣接地への越境を防止
  • 捨てられたゴミの片付け・・・臭いや放火の防止

など、庭の管理が中心となります。

また、そして、遠隔地にある空き家の管理のためには、いざという時の初期対応をしていただける場合もありますので、近隣の方へのあいさつは欠かさないようにして、できるだけコミュニケーションをとっておきましょう。もちろん、警察など地元の行政機関にも連絡を入れておくといいでしょう。

空き家の管理は所有者自身で行うことももちろん可能ですが、所有者が遠隔地にいる場合などは移動だけでも大変ですし、除草作業、樹木の伐採などは手間がかかり、体力的な負担が大きいため、やっぱり専門家にお願いしたい、という場合もあるでしょう。

では、空き家の管理を専門家に依頼する場合、どこに依頼すればいいのでしょうか? 依頼先としては、

  1. 不動産業者
  2. 警備会社
  3. 不用品回収(遺品整理)業者
  4. NPO法人
  5. シルバー人材センター

などが考えられますが、一長一短がありますので、各業者の業務内容を確認したうえで依頼することが大事です。

(3)賃貸する

空き家を人に貸して、借りた人に住んでもらおう、ということですが、まず、貸すために、リフォームは必須と考えておいたほうがよいでしょう。そして、当然ながら、借り手が現れるような立地であることが必要です。また、借り手が現れても、リフォーム費用に見合った家賃を得られるとは限りませんので、空き家を賃貸して運営を続けられるかどうか、初めの段階でじっくり検討しましょう。

賃貸に出そうと決めた場合、不動産会社への依頼を行います。まずは「いくらで貸せるか?」を判断するために、賃料の査定を依頼することになります。その場合の注意点としては、以下のとおりです。

  • 1社ではなく、少なくとも2、3社に依頼する
  • 査定家賃が提示されたら、その根拠を確認
  • 併せて、引き受けてくれる業務範囲も確認する

次に、不動産会社への依頼の形態をどうするかを決定します。依頼の形態としては「媒介」と「代理」があります。「媒介」は一般的な仲介であり、入居者を決めて、契約を締結するのは貸主自身で行います。一方の「代理」は、契約の締結も含めて不動産会社に委任することが可能で、「代理」のほうが貸主自身の手間はかかりません。

不動産会社に媒介、あるいは代理の契約を締結して借り手を見つけるわけですが、借り手との契約形態としては、一般的な普通借家契約と比較して定期借家契約のほうがより望ましいでしょう。定期借家契約であれば、契約期間終了で確実に明け渡しを受けることができますし、「売る」、「取り壊す」など、方針が変わった場合でも比較的速やかに対応することが可能で、もちろん、借り手と再契約することも可能です。ただし、普通借家に比べて、家賃は一般的には低くなります。

そして、借り手が見つかって実際に賃貸が始まったとしても、あとは何もしなくていい、というわけではありません。様々な入居者とのトラブルも覚悟しておく必要があります。エアコンなど設備の故障等への苦情などには迅速な対応が必要ですし、音の問題など入居者同士のトラブルにも対応しなければなりません。借り手の退去時には「敷金の返還」をめぐるトラブルなども起こりえますし、家賃の滞納には、早めの段階で対応しませんと、被害が大きくなってしまう可能性があります。空き家の賃貸も「不動産経営」であるということを肝に銘じておきましょう。

(4)売却する

空き家の有効活用にあたっては、賃貸するのではなく、使ってくれる方に売却する、という方法もあります。売却後、貸したときのような手間、コストがかかりませんし、使いたい人が購入すれば、空き家状態はほぼ解消します。また、売ってしまえば、元の所有者は空き家のことでこれ以上煩わされることもなくなりますので、空き家の有効活用を検討する場合、まずは「売る」ことを最優先に検討するのがよいでしょう。

空き家の売り方としては、以下のような種類があります。

  1. 中古住宅として・・・・・・・まだ「住める」場合
  2. 古家付き土地として・・・解体費用かからない分安くなる
  3. 更地として・・・・・・・・・・・建物解体が必要 

やはり売却の場合も不動産会社へ媒介の依頼をすることとなりますが、留意点は「貸す」の場合と同じです。依頼する不動産会社のタイプの特徴としては、

  • 大手不動産会社・・・広域的な集客が可能
  • 地元の不動産業者・・・業者ごとに違いが大きい
  • 空き家管理を依頼していた業者・・・お互いの理解が進んでいる

といったところでしょうか。
媒介契約の種類は3種類あり、その特徴は以下のとおりです。

  1. 専属専任媒介契約・・・売却(仲介)依頼先は1社のみ
    • 売主自身が買主を見つけても売買契約締結不可
    • 状況報告は「1週間に1回以上」
  2. 専任媒介契約・・・売却(仲介)依頼先は1社のみ
    • 状況報告は「2週間に1回以上」
  3. 一般媒介契約・・・複数の仲介会社に依頼可能

売却手続きの流れは下図のとおりとなります。

売却手続きを始めるにあたり、売り主は売却希望価格を決めることになります。売り手からしますと、できるだけ高く、早く売れることに越したことはありませんが、高く売りたい場合は長期戦覚悟で、また、早く売りたい場合は多少安くすることを覚悟しなくてはなりません。不動産会社の査定価格は、3か月程度で買い手が付くことを目安に出されていますので、それを踏まえて、売却価格を決定することになります。

また、不動産の売却においては、以下のような諸費用、税金がかかることも忘れてはなりません。

  1. 印紙代(印紙税)
  2. 仲介手数料
  3. ローン完済費用(含抵当権抹消費用)
  4. 譲渡所得税   

ただし、3・4は、空き家の場合はあまり該当しません。

(5)取り壊す

物理的に、そして経済的に貸せない、売れない場合は、有効活用のために空き家を取り壊さざるを得ず、建物の解体費用がかかります。解体費用については、以下の点について留意をする必要があります。

  1. 建物の構造によって大きく異なる(木造 ⇔ RC)
  2. 敷地の道路付け等によっても大きく異なる
    (重機が入れない場合などはより費用がかかる)
  3. 依頼する解体業者選びも慎重に
    (費用の面、廃材を適正に処分しているか等)

では、取り壊した後、どうしたらよいのでしょうか? まず考えられる選択肢は、土地(更地)として売却する方法です。更地とすることによって、その土地は多様な用途に使用可能ですので、売却できる余地も大きくなります。次に、土地として貸す方法です。用途としては、駐車場、資材置き場、トランクルームなどが考えられます。

また、新たに土地上に賃貸マンションを建設し、運営していくことも考えられます。賃貸用建物の建設により土地の相続税評価額が減少しますので、賃貸マンション建設は代表的な相続対策ですが、黒字収支が実現できるかは立地等に左右されます。そのため、建設にあたっては将来的に相続対策が本当に必要なのか、地域における賃貸住宅の需給動向はどうなのか、といったことを十分考慮して検討する必要があります。さらに、実際に相続が発生した際には、新たに建物を建設して不動産を固定化するよりも、更地のまま売却して現金化したほうが分割はしやすい、ということも頭に入れておきましょう。

4.空き家問題に対する公的取り組み

空き家の社会問題化を受けて、国や自治体も空き家問題に積極的に取り組むようになってきています。国、自治体が空き家問題に取り組むのは地域活性化の促進や倒壊等安全上の問題、美観、治安上の問題などの理由からです。

しかし、実際のところ、国や自治体の空き家問題への取り組みは効果が上がっているのでしょうか? 以下では、国、各自治体における 空き家対策の取り組みを紹介し、その具体例や取り組みの実施状況をみていきましょう。

(1)空き家条例の制定

「空き家条例」とは、空き家の適正管理を条例化することで、2015年10月現在、455の自治体で施行済みです。

空き家の適正管理に関する条例の施行状況(2015年10月1日時点)
(国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況調査」)

空き家条例には、以下のような内容が含まれています。

  • 所有者に適正な管理を義務付け
  • 自治体が所有者に対して助言、指導、勧告、命令
  • 命令に従わない場合、所有者の住所・氏名の公表(千葉県市川市)
  • 倒壊の危険性が高い空き家に対する行政代執行(秋田県大仙市、東京都大田区)

※行政代執行:行政が所有者に代わり建物解体などを行い、その費用を所有者に対して 請求すること

参考リンク:市川市空家等の適切な管理に関する条例(市川市)

ただし、空き家条例を制定するなど取り組みに積極的な自治体もある一方、未だ取り組みに消極的な自治体も多くあります。全国の半数以上の自治体は相談窓口の担当部署も決まらず、人員や予算の制約、個人財産に対して行政が処分を行うことへの抵抗感などもあり、空き家問題に積極的になれないようです。

それでも、空家特措法の施行が自治体の空き家問題への取り組みを後押ししているのも事実で、施行により、①所有者の調査 → ②助言・指導 → ③勧告 → ④命令 → ⑤行政代執行、が体系的に実施可能にもなりましたので、今後、自治体のさらなる空き家対策の取り組みの積極化が期待されています。

(2)除却費用の助成

空き家の解体費用の一部を自治体が助成しています(国は助成を行う自治体に対してさらにその一部を助成)。「空き家再生等推進事業」と呼ばれており、国40%、自治体40%、最大で解体費用合計の80%を補助します。

各自治体の除却費用助成の例は以下のとおりです。

①広島県呉市

  • 市内に存する空き家で、住宅(併用住宅は,居住部分が2分の1以上であること)
  • 解体工事費用の30%、かつ30万円以下(含む消費税)

参考リンク: 呉市「危険な空き家の除却に助成(危険建物除却促進事業)」

②群馬県桐生市

  • 対象地区内にある概ね1年以上居住その他の使用実績がない特定空家等
  • 対象工事費の2分の1以内で上限30万円

(3)改修費用の助成

空き家の改修費用の一部についても自治体が助成しています(国は助成を行う自治体に対してさらにその一部を助成)。「空き家再生等推進事業」と呼ばれており、国3分の1、自治体3分の1、最大で改修費用合計の3分の2を補助します。ただし、改修費用の助成はバリアフリー改修、耐震補強改修などへの助成が多くなっており、主要構造部(屋根、壁)改修への助成はいまひとつです。また、移住者向けの改修助成も多いようです。

各自治体の改修費用助成の例は以下のとおりです。

①佐賀県佐賀市

  • 市の空き家バンク制度に登録している住宅について改修工事を行う場合
  • 改修工事費用の2分の1、かつ50万円以下

参考リンク:佐賀市「空き家改修費助成制度について」

②京都府京都市

  • 賃貸用又は売却用でない空き家を活用又は流通させようとする場合の改修工事など
  • 改修工事費用の2分の1、かつ30万円以下(京町家等の場合は60万円以下)

(4)固定資産税の減免

「2.空家対策特措法の施行」のところでも触れましたとおり、空家特措法の施行により、空き家の住宅用地の固定資産税特例解除が認められ、空き家を所有していても固定資産税が増加する可能性が出てきましたが、一方で、空き家を解体しても固定資産税減免を継続する 自治体もあります。管理状態が不良の空き家に対して、解体後も数年間は固定資産税の減免を継続することにより、解体の促進を図っていくものです。

各自治体の固定資産税減免の例は以下の通りです。

①徳島県鳴門市

  • 市職員が「老朽化した空き家」と判定した住宅の解体に対して適用
  • 減免期間は10年間であるが、6年度目から10年度目にかけて段階的に減免解除)

参考リンク: 鳴門市「老朽空き家を取り壊した場合の土地固定資産税の減免について」

②静岡県磐田市

  • 市の行う空き家解体に対する補助金の助成を受けて解体した空き家に対して適用
  • 減免期間は3年間

(5)空き家バンク

空き家バンクとは、自治体による空き家紹介制度で、情報をホームページ上などで紹介しています。これは、地域への定住を促進するための制度で、地方にある空き家などは、価格水準が低い、あるいはそもそも価格が成立しない物件が多数を占めます。このような、民間の不動産会社が扱わないような空き家について、移住希望者等に紹介し、購入等を促進する役割を担っているのが空き家バンクです。

移住・交流推進機構の調査(2014年1月)によりますと、全国の市町村のうち6割以上の自治体が空き家バンクを設置していると回答しており、制度上は定着しつつあります。しかし、開設以来の成約件数は、市町村のうち半数近くが9件以下である一方、年間40件以上の利用実績の自治体もあり、活用の度合いは自治体によって大きな差があるようです。

さらに、自治体ごとに作られていました空き家バンクをまとめて見られるように、国土交通省によって「空き家バンク」情報の一元化が図られました。各自治体による空き家バンクの仕様を統一し、全国の物件をネットを通じて簡単に検索できるようにするもので、希望地域、立地条件を入力すると、全国の対象物件の一覧が可能となりました。そのサイトが「LIFULL HOME‘S 空き家バンク」で、利用の拡大、ひいては空き家、空き地の流通拡大により、民間の不動産関連ビジネスが拡大することも期待されています。

参考リンク: LIFULL HOME‘S 空き家バンク

5.空き家となった親の家の行く末を決める

空き家となった親の家を相続した場合、今後、空き家をどうするかを決めていく必要があります。しかし、

  • 相続人の間で全体の遺産分割をどうするか、意見をまとめるのは大変
  • 親の遺品がたくさん残っており、処分するのはしのびない
  • また、処分すること自体も手間がかかる

といったこともあり、ついつい放置しがちになります。
ただし、放置しっぱなしですと、

  • 建物老朽化による倒壊の危険性
  • 雑草、樹木が伸び放題、虫の発生も
  • ゴミの放置、さらには治安上の問題

など、近隣の迷惑となってしまいますので、少なくとも管理は行い、できれば、より有効な活用を行っていきたいものです。以下では、空き家となった親の家の有効活用を妨げる問題点をとりあげ、解決へ向けてのポイントを検討していきます。

(1)新たな所有者を決める

親の死後、家が空き家になった場合、まずは新たな所有者を決める必要があります。所有者を決めませんと、売却、賃貸など有効活用へ進むのが困難になりますし、固定資産税の支払いなど、責任の所在が不明確になりますので、相続人間による話し合いで所有者を決定します。

しかし、遺産分割時における、以下のような「親の家」特有の問題があります。

①分割困難な不動産

親の遺産全体を踏まえて遺産分割を考えるにあたり、不動産は「分割困難な財産」であるといえます。

  • 単位当たりの金額が大きい
  • 物理的に分割して使用することが困難な場合も多い

相続人間で不動産のままではうまく分割できない場合、この段階で親の家を売却(換金)せざるを得ない場合も出てくるでしょう。また、建物のみ取り壊し、土地を分割したり、代償分割(金銭による差額調整)といった売却以外の選択肢もあります。

②「親の家」に対する思い

親の家は、「子」等である相続人にとっても思い出深い場所である場合が多く、思い出多いこの場所を失いたくない、という思いが有効活用を妨げてしまう場合があります。しかし、一方で、「思い出は家がなくても引き継げる」という考え方もあります。

③不動産の共有による相続は、できるだけ避ける

「分けづらい」資産である不動産ですが、共有であればとりあえずは平等にということで、ついつい共有で相続してしまいがちです。しかし、共有にしますと、売却時などに共有者全員の同意が必要となるなど、権利は引き継がれますが売却等は困難なままで、有効活用にプラスになりません。不動産の共有による相続は、できるだけ避けるようにしましょう。

(2)分割の際の「価格」

遺産分割の際に、不動産をどの価格で評価するかは悩ましい問題ですが、選択肢としては以下の4つが考えられます。

  1. 時価(市場での売買価格)
  2. 公示価格
  3. 相続税路線価
  4. 固定資産税評価額

②:③:④は、一般的に「10:8:7」の価格比となります。また、①の時価についてはなかなか把握しづらいのですが、地価上昇期は②よりも高く、下落期は②よりも低くなる傾向があります。

どの方法で評価するかは、相続人の間での話し合いで、全員が同意すれば、どの価格で評価しても構いません。しかし、換金価値で考えるのであれば、①時価で評価することが望ましいでしょう。しかし、時価は把握しづらいという難点がありますので、公示価格(≒相続税路線価÷0.8)で時価に近似させて評価をすることも一つの方法です。もちろん、より正確性を期すということであれば、不動産鑑定士による査定を参考にされるのもよいでしょう。一方で、相続税の計算の際には相続税路線価を用いる必要があります。

(3)できれば親の生前に決めておく

親の死後の自宅をどうするかについては、できれば他の財産と同様に、親の生前に親の意向を聞きながら話し合っておくと望ましいでしょう。しかし、親本人に、死後の自宅のことについて話を切り出すのは難しいものです。自分のお墓や、死後のことなど、親が「終活」を考え始めたころが、自宅についても切り出す良いタイミングではないでしょうか。もちろん、他の財産のことと一緒に話し合いましょう。

親との話し合いにおいては、まずは、家に対する親の意向をしっかりと聞きましょう。もちろん、親の意向を踏まえたうえで、子ども(たち)の意向も親にはっきりと伝えなければなりません(死後、自分たちは住むつもりはない、など)。親の家の将来については、事前に子ども(たち)の間で意見をまとめておくことも有益ですし、有効活用方法については、考えられる方法について事前に整理しておくこともよいでしょう。

結論を出すにあたっては、親の家の行く末も大事ですが、決められるのであれば、まずは他の財産を含めた親の財産の財産分割についての合意を行いましょう。親の死後すぐに売却する場合はそれに従い、子ども等のだれかが相続する場合は、新しい所有者の意向のもとに有効活用方法を検討していきます。もちろん、決めたことを親の死後に円滑に行っていくために、話し合いの結果を「遺言書」に残すことをお勧めいたします。

(4)親が認知症になってしまったら

親に認知症による判断能力の衰えがみられるようになりますと、不動産(親の家)の取引は困難になります。では、認知症となった親に成年後見人をつけたら大丈夫かといいますと、売却の可否は家庭裁判所によって判断されることとなります。その際は、以下のようなポイントが判断基準となります。

  • 売却が介護費捻出など親のために必要か
  • 売却しても親の居所は確保されるか
  • 判断能力次第では、親に売却の意向があるか
  • 売却額は妥当か

このように、たとえ成年後見人がついていたとしても、子どもたちの望むように売却できるとは限りませんので、だからこそ、だからこそ、親が元気なうちに話し合うことが望ましいのです。